後悔も、失敗も、したくない。
「この道を選んだ後に、やっぱりあの道を選べばよかった…そんな風に後悔したくなくて」
「でも、逆のことも言えるんですよね」
そう言いながら、頭を抱える一人の高3生。
センター試験まで残り4か月を切ったこの時期、毎年生徒たちの心は揺れる。伸び悩む成績への不安、さらにそこに学校からの推薦という選択肢の提案。つまり、第一志望を変えるか、変えないかの選択を迫られる。
目の前にいる18歳の少女も、その決断を迫られている一人だ。
推薦を受けた場合のメリット、デメリット。
一般を選んだ場合のメリット、デメリット。
学校の先生の意見、親の意見、塾の先生の意見。
自分のこれまでの成績。
自分を取り巻くあらゆる情報と、それぞれへ感じている迷いを話してくれる。
抱え込んでいたもの一通り吐き出した後、彼女はぽつりとつぶやいた。
「私、どうしたらいいんですかね」
彼女の話は、主語がすべて他人だった。
「先生は~」「親は~」そればかりで、
自分がどうしたいのかという話は一つもなかった。
とても素直な子なんだと思う。周りの大人の意見にしっかりと耳を傾け、感謝し、それに応えようとする。けれど、だからこそ、自分の意見を見失いやすい。
そのことを伝えた後、私から1つだけ提案をした。
「『どうしたらいいか』というより、
『自分がどうしたいか』をまず考えてみたらどうかな?」
「それにね、どの道を選んでも、自分次第でなんとでもなるから」
そして、少しだけ、自分自身の大学受験の話をした。
センター試験で失敗して、絶対に行きたくなかった地元の私大に行くしかなかったこと。
それが最初はいやでいやで仕方なかったこと。
けど、腐ってても仕方ないと思いなおして、それから色々動き始めたこと。
「もちろん、後悔がないと言えば嘘になる。けど、今はあそこに入ってよかったと思ってるよ。たぶんだからこそ今、私は塾にいて、こうしてみんなと面談をしてるんだと思う」
そう伝えると、ほんの少し、彼女の顔から力が抜けたような気がした。
そしてちょうどその夜、見ていたドラマにこんなセリフがあった。
大切なのは、どんな選択をするかじゃない。
自分が選んだ人生を強く生きるか。
ただそれだけだ。
私だって彼女と同じだ。
後悔も、失敗も、したくない。
こうして生徒たちの心に踏み込む度、
生徒たちの人生を変えてしまうかもしれないという怖さや
選択によっては、保護者からクレームがあるかもしれないという怖さが
いつも頭の片隅にある。
けれど、それと同時に
生徒たちの無限の可能性とその手助けができることが
すごく楽しい。
彼女がどんな選択をしてきたとしても、私がやることはただ一つ。
「彼女が必死に考えて、選んだその道を強く生きていけるようにサポートし続けること」
ただそれだけなんだと思う。